【完】狂犬は欲望中毒。
私の手首を引っ張って無理矢理歩かせる男が、正門ではなく校舎裏にある小さな門から出ると。
すぐ近くに停めてある車に私を押し入れた。
逃げられないと分かった瞬間、血の気が引く。
「やっと黙ったか。怖くて声も出ねーってか?」
「……どこ、に……」
ダメだ、平静を装いたいのに上手く声がでない。
動き出した車に渇いた喉は唾すら上手く飲み込めない。
「どこに?楽しいとこに決まってんじゃん??
はぁー、やっと左和季の焦った顔が見れる」
「……最低ですね」
「はっ、まだ喋れんの?意外と気が強いな。
今にも泣きそうなくせに無理すんなって」
ポンッと軽く肩を叩かれただけで、分かりやすく驚く私に、男はケラケラと愉快そうに笑う。
どうしよう……。
左和季君、今頃校門で待ってるよね?
いつまで経っても現れない私に、何かあったんじゃないかって左和季君はすぐに気づきそうだけど。
もし私のせいで左和季君が危険な目に遭ったらどうしよう……。
想像したらゾッとして、震えが止まらない。
そんな私を見て男は「こっからもっと楽しくなんのに、そんな怯えんなよ」とバカにした様に笑っていた。