【完】狂犬は欲望中毒。
鍵を回して部屋に入る。
傷だらけのこの人を床に座らせるわけにもいかなくて
ワンルームの部屋からすぐ見えるベッドに、力なくした男を放った……というか見事にベッドに自ら倒れてくれた。
「生きてます……よね?
えっ、部屋に入れた瞬間死んでたら、私真っ先に疑われちゃいますけど、そこんとこどうなんですか?」
「……」
耳を寄せてみたけど、男の寝息が聞こえてくるだけで返事はない。
よかった……生きてる。
我ながらお人好しだな~と、少しでも部屋を広くしようと食器棚の上に置いていた救急箱に手を伸ばす。
身長が足りない分は、イスに乗って救急箱をガッチリ掴むと床に足をつける。
「お、お兄さん失礼します」
困ったことにお色気シーンだ。
不器用なりに、見える部分の傷は手当てしたのはいいものの。
問題は服で見えない肌にある傷。
さっき少し触れただけでも痛そうだったから
けっして邪な気持ちはないし、早く手当てしてあげないと可哀想なことは分かってるけど。
「むっ、無理じゃん!」
男の上半身を脱がせるなんて
我ながら大胆な子だよね私。
そんなの無理無理無理!
せっかく行きたい高校に受かったのに
アロハシャツ着た両親に『小羽も一緒に冒険者になろうぜ』って無理矢理海外進出させられそうになった時くらい無理すぎる状況。