【完】狂犬は欲望中毒。
「な……なに、今の」
エレベーターに乗って部屋まで戻るまでの約1分間の間が、恐ろしいくらい長く感じた。
頬に左和季君の唇の感触が残ってる。
キスされた肌に思わず触れると、自分の顔の熱さに心臓の音が体内で鳴り響く。
焦って、キスについてそこまで触れずに帰ってきたけど……。
「ぜ、絶対唇にされそうになったよね?」
左和季君のあの時の顔。
獲物を狙った時の鋭い目つきをしてた。
思い出すと恥ずかしい。
けど。
お……男の人に色気を感じてしまった。
『気になってる』とは言われたけど
『好き』だとは言われてない。
なのに私にキスしようとした。
でも、すぐに我に返ったのか
左和季君の唇が触れたのは私の頬っぺた。
すぐに理性を取り戻したってことは
それってやっぱり、『気になってる』止まりなのかも。
……ん?
なんで今、胸の辺りが一瞬モヤってしたんだろう。
「な……なにちょっとショック受けてるんだろう私、変なの。
あはは、ご飯食べよ」
部屋にひとりしかいない独り言は、恥ずかしさを更に煽ったが
気のせいだと部屋着に着替えてキッチンに向かった。