ねえ、気づいてよ……
でも、できなかった。


「だ、れ......?」


ううん、私、あの人知ってる。


普段笑わない怜があんなに優しい顔して、笑ってる。


あんなに、愛おしそうな顔して、笑ってる。


「あ、あの人、確か2年生で1番美人の......」


名前は、私の耳に入ってこなかった。


まるで視覚以外の全ての感覚が失われたみたいに、2人しか見えなくて、なにも聞こえなかった。


「涼音!」


呼ばれてビクッとする。


「涼音、大丈夫?」


「う、うん」


大丈夫なんかじゃなかった。


でも、大丈夫って言わなきゃ、本当に大丈夫じゃなくなる気がして、嘘をついた。


「このあと、どうする?」


「うーん......」


行きたいとこ、行ったしねぇ。


「あれ、涼音じゃん」


後ろから、声がして振り返る。
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