ねえ、気づいてよ……
「ねえ、聞いてた?」


「ぜ、全然です」


「ははっ。次はちゃんと聞いててよー?」


少し焦ったけど、楽しそうにニコニコ笑った拓馬先輩にほっとする。


拓馬先輩との分かれ道までずっと、先輩の穏やかで楽しい話に耳を傾け続けた。


「じゃあねー」


拓馬先輩と別れると、怜と2人きり。


どうしても愛先輩の言葉がよみがえって、自分から話しかけられない。


「涼音、なんかあったか?」


え......?


「なんか、いつもより下向いてる」


「......っ」


なんで、気づいてるの。


「あ......。なんでも、ない......です」


最後の2文字は、躊躇った。


言ったら、何かが一瞬でなくなる気がしたから。


「涼音?」


「大丈夫、です、から」


見てないけど、怜の顔が険しくなっていってるのが分かる。
< 18 / 272 >

この作品をシェア

pagetop