ねえ、気づいてよ……
はやる気持ちを抑えながら、兄貴の車で鈴音の家まで送ってもらう。


「怜、ありがとな」


「ああ」


それだけ返事をして、家へ戻った。


「ただいま」


いつも、当たり前のように返ってくる『おかえり』がない。


「涼音?」


不安になりながら、リビングに入る。


ソファを見ると、膝を立てて、俺がこの家に持ってきたクッションを抱えて、それに顔を埋めて寝ている涼音がいた。


ただただ、安心した。


「涼音、ただいま」


起こさないように涼音に話しかける。


「怜......」


一言だけ発した言葉は、俺の胸をときめかせた。


寝言で自分の名前って、結構嬉しいな。


シャワーを浴びて、涼音の元に戻る。


キッチンへ行くと、昼食を食べた形跡がなかった。


あいつ、ずっとあそこにいたのか。
< 66 / 272 >

この作品をシェア

pagetop