婚約破棄をして乗り換えた元彼と妹と私の幸せ【現代、短編】
「うわぁー、お姉ちゃん鞄買ったの?柚芽も欲しかったやつだぁ、いいなぁ」
 やばい。
 また始まった。柚芽のいいなぁが。
 生まれた時からずっとだ。
 小さい頃は「ちょっと貸してあげなさい」と、親が私の手からおもちゃを取り上げる。
「いやっ!」
 ある時、思い切って親に言ってみた。
 帰って来た言葉は「お姉ちゃんでしょ!」だった。
 うーん、久しぶりに思い出したわ。
 まぁでも、親も流石に妹の欲しがりは異常じゃないかと気が付いてからは、なるべく同じものを2つ買うようになった。
 そして「いつも我慢させちゃってごめんね」と、こそっとお菓子をもらったこともある。
 親もなぁ、妹には困り果てていたのだと思う。お姉ちゃんでしょ!って言葉にはひどく理不尽さも感じたけれど。
 それでも、大人になってからは、親も大変だったんだろうと……。
 たぶんあれよ。
 元カレが、柚芽のことで何か言ってきたら「彼氏でしょ!」って言っちゃうと思う。
 というか、私は言う権利があると思うんだ。
「ねぇ、貸してお姉ちゃん」
 やっぱりか。
 いいなぁからの、貸して。欲しい、ちょうだいじゃないだけマシなのか?
 一応、返っては来る。
 ただし、無事とはいいがたい姿の場合もある。
「ダメ。まだ私も使ってないんだから」
「え?なんでぇ?」
 なんでって、説明聞こえてないのかな?理由も言いましたよね?
 それとも、私が使っていないから貸せないのは何故と聞いています?
「私が、私の働いたお金で自分が使うために買ったの。まだ目的を果たしてないのだから、柚芽には貸せない。私が使った後なら、貸してあげる」
 と、丁寧に説明する。
「やった、貸してくれるの?ありがとうお姉ちゃんっ!大好き」
 柚芽がニコニコと嬉しそうに笑った。
「そうだ、柚芽も、今度新しい鞄買ったらお姉ちゃんに貸してあげるね!」
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