離してよ、牙城くん。
口では勝てない。
力でもあたりまえに勝てない。
頭の良さも勝てない。
ましてや、運動神経も勝てない。
……絶望。
わたし、牙城くんに負けてばかりだ。
あまりにも酷い現実にショックを受ける。
牙城くんみたいな完璧人間がおかしいんだ。
ひとには欠点のひとつやふたつ、だれにもあるんだから……!
なんとか自分で心を取り戻し、落ち着かせる。
その横で、牙城くんはふわあっと欠伸をしていた。
……もう、呑気なんだから。
「なーんか、口寂しーわ」
ぽつりと呟いた彼に首をかしげる。
……と、ポケットから取り出したのは……、ざっと数えて10本ほどのカラフルな棒つきキャンディ。
「百々ちゃんも食う?」
はい、と目の前に出されたそれらに、えっと目を見開く。
「くれるの?」