離してよ、牙城くん。
ちょっとでも動いたら唇が触れてしまいそう。
近すぎ、距離。
こんなの、ぜったいわざとだ。
赤くなるわたしを見て、ほら、満足そうに笑った。
悪趣味にもほどがあるんだよ。
いつまでもわたしが牙城くんの言いなりだと思ったら大間違いなんだから。
心のなかで抵抗していると、牙城くんは口を開いた。
「もうそろ、戻らないと大変じゃない?時間」
「え、あ、ほんとだ?!」
なんと、しまった!
彼に言われて校舎にある時計をみると、次の授業のはじまりを告げる予鈴が鳴る2分前。
急いで牙城くんの胸を押して距離をとり、言う。
「牙城くんもきちんと授業出るんだよ……!」
きっとこれからサボるつもりの牙城くんに言葉を投げかけ、彼の反応を知る前に、わたしは教室へと走り出した。