離してよ、牙城くん。
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「……あれ、七々、今日帰ってきた?」
その日の夜。
リビングで牙城くんとのメッセージのやり取りににやにやが止まらずにいると、疲れはてた顔で帰ってきたお母さんが、そうわたしに尋ねてきた。
「ううん。わたしは見なかったけど」
「そうなの? プリンがひとつ、なくなっているのよねえ」
わたしは6時過ぎに家に着いた。
それまでのことは、知らない。
「……それじゃあ、わたしが帰って来るまえかも」
きっと、わざとわたしと会わないようにしたんだ。
小さく声を落とし、スマホの電源も落とし、ソファにぐだーっとくつろいだ。
わたしの心の声が聞こえたかのように、お母さんは明らかに気を遣いだす。
「そうねえ……、百々は今日帰るの遅かったらしいしねえ……」