離してよ、牙城くん。
のんびりとそうお母さんは呟きながら、わたしが作った夜ごはんを口にする。
美味しい、美味しい、とにこにこするお母さんを見ると、七々ちゃんのことを考えてもやもやしていた気まずさもどこかへ消えていってしまう。
「ねえ、……お母さん」
「んー? どうしたの?」
マイペースなお母さんは、眠いのか、夕食を食べながら目をとろんとさせている。
……最近、また激務だもんなあ。
看護師という仕事を誇りに思って毎日働きに出ているお母さんだけれど、疲労はそのぶんあるらしく。
シングルマザーということで、娘たちに内緒にして、規定以上に働いているのも本当は知っている。
こんなにがんばってくれているお母さんがいるのに……、本当に七々ちゃんは何をしているんだろう。
……でも、わたしはまだ高校生。
なにもできない。無力だ。
……いつかわたしが、たくさん稼いでお母さんを楽にしてあげるから。
だから、いまはまだ、甘えさせてね。
「にしても、百々はお料理じょうずねえ」と、お母さんの何十回目かわからない褒め言葉を聞きながら、ふう、とため息をついた。