離してよ、牙城くん。
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その日、家に帰ると玄関先にひとつ、靴がきれいに揃ってあった。
いつもはこの時間、だれもいないはずなのに、と不思議に思う。
わたしは3人家族。
はじめに言うと、お父さんという存在はいない。
というのも、数年前お母さんとの生活の不一致で家を出て行っていたので、家にはいないということ。
そして、お母さんは看護師だから、夕方に家に帰ってくるなど緊急事態でない限りありえない。
ということは……。
「あ、百々おかえりー」
帰ってきていたのは、双子の姉の、七々ちゃんだ。
思わず、……ため息をつきそうになった。
わかりやすく顔をしかめたわたしを見て、七々ちゃんは困ったような苦笑いを浮かべた。
「あー……、もう出て行くから、ごめんね」
なにが、ごめんね、なの。
とか。
またどこ行くの、という感情が心を支配するけれど。
だからと言って、わたしは引き止めたりはしない。