離してよ、牙城くん。
とまらない牙城くん
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黒いセダンの中。
わたしはというと、脚と腕はロープがぐるぐる巻きにされ、下手に動くと危険な状態に瀕している。
こんなことになるとは、予想だにしていなかっ……。
いや、どこかでわかっていたのかもしれない。
七々ちゃんがいるという病院へ向かうと言われ、乗り込んだところで、景野さんに笑われた。
『牙城クンの女って、こんなチョロいんだ?』
え?という隙もなく。
抵抗すらさせてもらえぬまま、セダンから出てきた男の人ふたりに羽交い締めにされ、乗せられて、さらには縛られた。
あぜんとしたまま景野さんを見ると、呑気にたばこをふかしていて。
……わたし、もしかしてだまされた?
はじめて誘拐しちゃった、と愉快に嗤う彼に、はじめて恐怖を覚えたのだ。