離してよ、牙城くん。
無駄に広い倉庫のようなところ。
灰色の壁、地面、天井。
わかりやすくいえば、何もない。
空気は冷たくて、悲しいほどに静かだ。
ここは入り口に近いのか、奥のほうに部屋のようなものがあり、漆黒の扉がついている。
この空間にはわたしと景野さん以外おらず、ところどころ、その部屋から話し声が聞こえてくる。
「もうそろそろ、【狼龍】が怒りに任せてやってくるはずなんだがね」
景野さんは、ふふっと不敵な笑みを浮かべた。
ふかしていたたばこをジャリ、と踏み、火を消す。
それから、わたしのまえにしゃがみ、視線を交わせてくる。
「牙城クンに電話したら、あまりにも彼が憤りすぎて……それはそれは怖かったよ」
「電話……、したんですか」
「ああ。睡眠薬で眠らせてるって言えば、……何か物を投げたのか、とんでもない音がしていたけどね?」