離してよ、牙城くん。




「その途端、牙城クンは立ち上がった。あんなに僕らにやられたのに、まったく蹌踉めくことなく、平然と。正直、バケモノを見た気分だった。
そんなとき、ナナは牙城クンの瞳を見つめ、言った。『ナギ、これからは、わたしもいっしょだよ』と」



僕らは、それを見て、呆気にとられて何もできなかった。

そう呟く景野さんは、切ない表情をしていた。





牙城くんが抵抗しなかったのは、【狼龍】の総長なんてやりたくなかったから……らしい。


ただ強いから、というだけで先代にその座を譲られ、座らされた。




ありがたいことなのに、牙城くんは喜べなかった。


いままでひとりで戦ってきたのに、どうやって、仲間を守るんだって。

荷が重かったんだと。




そのおかげで、【狼龍】のメンバーからは恨まれることも多かったんだって。

だから、自分が弱くなればいいんだって、そう……考えたらしい。





< 279 / 381 >

この作品をシェア

pagetop