離してよ、牙城くん。



景野さんは、いったん息を吐いた。



“あんなこと”





彼の言葉に、ヒュッと胸に冷風が吹き込んだ気がした。





それほどまでに、信じ合い、愛し合っていたふたりが。


……どうして、こんなにも疎遠になってしまったのか。




それからの牙城くんが、わたしと出会った牙城くんであることが、容易にわかってしまう。


……わたしとはじめて会ったときの牙城くんは、本当に本当に身も心もボロボロで。




それも、【相楽】にやられたときよりも、もっと、もっと。


……もしかして、わたしが声をかけたあのとき。




あれほどまでに傷ついていたのは……。






「──── ナナが、牙城クンを捨てたんだ」






寒気がした。


あの七々ちゃんが、……裏切るなんてことをするなんて。




…………そのせいで、あんなにも牙城くんが荒れるなんて。



信じられなかった。






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