離してよ、牙城くん。
感情が停止し、表情が消える。
牙城くんは、やっぱりわたしを愛してなんかなかった。
都合のいいときに、七々ちゃんそっくりなわたしが現れたから、利用しただけなんだ。
ずっと……、牙城くんの心に住んでいるのは、七々ちゃんだった。
景野さんが言い終えると、彼はそっとわたしに声をかけた。
「……ぜんぶ、秘密にされていたようだね。なんていう憐れだ」
……だまって。
泣けなくなった瞳のせいで、胸の奥がジンジンと痛んで辛かった。
景野さんの細い指がわたしの目尻に触れそうになった、その瞬間。
いつかのデジャヴのように、ガァァンッと鈍い音が灰色の空間に鳴り響いた。
「……おや、さすが、いいタイミングで来たようだ」