離してよ、牙城くん。
歌を歌うように上機嫌な景野さんは、わたしに伸ばしていた手をぴたりと止めた。
蹴られたのは倉庫の入り口の重い扉のようで、その後も何度もガンガンと音を鳴らせている。
それだけで、だれかわかってしまう。
……牙城くんだ。
いま、いちばん会いたくて、……いちばん会いたくない人。
風に靡く銀色の髪が、見えた気がした。
「牙城クンや、そんなに蹴っても殴っても。その扉は残念ながらビクともしないよ?」
楽しそうに扉のほうへ歩み寄る景野さん。
牙城くんを煽るように、そんな言葉を口にした。
それでも止まぬ轟音に、思わず顔をしかめた……けれど。
「──── 早く開けろっつってんだろうが!!!」
今度はダァァンッと、さっきとは比でないほどの重苦しい音が轟き、灰色の空間に光が差し込んだ。