離してよ、牙城くん。
牙城くんの声は地を這い、聞く者すべてを恐怖に陥れる。
その証拠に、わたしに触れていた赤髪の男はビクッとし、あからさまに自分の気持ちを紛らわすよう、嘘笑いをしていた。
「牙城クンが手のつけられないほどお怒りのようだから……、手短に済ませようか。
まず、……そこに、ナナはいるか?」
景野さんは、このなかでいちばんの落ち着きをはらい、冷静に【狼龍】に問いかけた。
……あふれんばかりの人、人、人。
どれも男の人で、七々ちゃんが混じっているようにはまるで見えない。
そもそも、わたしのために七々ちゃんが来るなんてありえない。
それなのに、バカげたことを聞くなあ、とひとりでぼーっと外を見た。
その質問を予期していたのか、どんよりした空気を醸し出す【狼龍】のなかから、ひとつ凛とした声が聞こえた。
「いるよ、祥華」