離してよ、牙城くん。
サチカ、と景野さんを呼んだ声は、れっきとした七々ちゃんの声だった。
まるでわたしの声なのかと疑うほど、似たトーン。
人の波に埋もれた中から、七々ちゃんは前に歩み寄る。
「……ナナ、」
ぴんと伸びた背筋。
揺れるショートの黒髪。
華奢な体躯。
纏う空気は、わたしの知っている七々ちゃんでなく、暗くてわびしいものだった。
本当は期待していなかったのか、現れた七々ちゃんに絶句している景野さん。
もともと前にいた牙城くんと並んだ七々ちゃん。
並んだふたりを見ると……、どうしたってお似合いで、お互いを愛していたのが当然のように思われるほど、雰囲気が似ていた。