離してよ、牙城くん。
「ほんっと……、しょうもないね、おまえら」
彼のネクタイを締めていたひとりをバキッと殴り、……殴られたその人は、呆気なくぱたりと地面に倒れた。
……気を、失ったの?
見ないように覆っていた手の隙間から、見えてしまう惨劇。
絶句してしまうわたしと違って、派手髪の彼らは、うおーっと雄叫びをあげて牙城くんとやらに突進していく。
それを華麗にかわし、殴り、蹴り、ばたばたと敵を倒していく。
わたしは、見ている光景が信じられなかった。
どうして、さっきわたしは、この人が負けると思っていたのだろう。
目は、そらせなかった。
……こんなにも、強くて美しいから。
盗み見をしていることを忘れて、見入ってしまうほどに。
見るのが苦でないくらいに綺麗に拳を使う彼の銀髪は、闇夜の世界にうまく溶け込んでいた。