離してよ、牙城くん。
「まじで、よっわ」
全員が地面に伏せたあと、傷ひとつつけずに呟く銀髪の彼。
手持ち無沙汰に拳を見つめ、ぼーっとしている。
……何を、考えているんだろう。
…………この人の世界には、何が映っているんだろう。
気になって、気になって、仕方がなかった。
未知の世界に踏み込んだ気がして。
この人のことを、……もっと知りたいと思ってしまったの。
「……あの、」
なんであのとき声をかけたのか、いまでも理由は明確じゃなかった。
ただ、触れてみたかった。
こんなにも人を華麗に傷つける彼を、知りたいと感じたから。
もしかすると、彼がとても危険な人で、わたしにも危害を加える人かも……だなんて発想はなくて。
声をかけたわたしを、驚くことなく見つめてくる彼に、一歩だけ近づいた。