離してよ、牙城くん。
張り詰めた空気が緩んだからか、後ろで椎名さんが大きなあくびをしているのが見えた。
それに、呆れた顔で淡路くんが椎名くんの背中を叩いているのも目にする。
【相楽】の人たちも非道だと聞いていたのに、なかにはわたしたちのように涙している人もいて、噂どおりじゃない彼らに感動してしまった。
「俺さあ、わかってると思うけど、相当めんどい男なんだよね」
「もちろん知ってるけど」
すかさずうなずく景野さん。
あまりにも早い返答に、牙城くんの表情が引きつっている。
七々ちゃんが、そっと「百々も知ってんでしょ」と合いの手を入れてくるから、やめてよ、と口元を緩ませながら反論した。
そんなわたしたちに見向きもせず。
景野さんに真っ黒なオーラを放っている牙城くんは、首を傾げ、口角をあげる。
「俺さー……、百々ちゃん泣かしたやつ、殺したくなるんだよね」