離してよ、牙城くん。
あんな素敵な子が、俺を好きだなんて未だに信じられない。
毎日寝るのが怖いし、目が覚めたら夢でした、みたいなオチを本気でずっと心配しているくらいだし。
百々ちゃんに出会ったときから、何も変わらない。
最初に百々ちゃんに声をかけられたときは、七々だと錯覚した。
ずいぶんゆるい話し方をするようになったな、とか。
なんでいまさら俺に話しかけてくるんだ、とか。
さっさとどっか行ってくれねえかな、とかしか考えてなくて。
ひとりにしてほしい、って本気で思っていたけれど。
持っていたばんそうこうぜんぶ俺にくれたり、カーディガンを羽織らせてくれた彼女をよく見ると、ぜんぜん七々に似ていないことに気づいたんだ。
冷たい世界で生きていた俺にとって、怖がらず怯えず、ふつうに話しかけてくれて温もりをくれた百々ちゃんに惹かれるのは必然で。
俺には百々ちゃんしかいないって。
重いけど、そうとしか考えられなかったんだ。