離してよ、牙城くん。




「……俺、渚さんみたいな人になりたいです」




悔しそうに、でも清々しく、紫苑は言う。

紫苑の言葉を反芻するも、思わず首を横に振りそうになる。




……俺みたいな人、って。


ぜったい、ならないほうがいいと思うけど。



それくらい、憧れてくれるのは痛いほど身にしみた。

俺が、こんなにも慕われるなんて七々や百々ちゃんに出会う前は想像もつかなかったことだから。


……こうやって言ってくれるのって、なんだかんだ嬉しいもんだよなあ。



自然と口角があがる俺の横で、椎名が少し、目尻を下げているのが見えた。




「紫苑は、紫苑のままでいいよ。俺みたいにはならないほうがいい」



なんたって、俺、前科めっちゃあるからさ。

過去は面倒だし、大好きな子には重いし、族のことも適当だし。



なんでこんな俺を敬ってくれてるのかわからないけれど、紫苑は紫苑のままでいてほしいと思った。





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