離してよ、牙城くん。
「一生離してあげないから、その覚悟はしててね。百々ちゃん」
あのとき、百々ちゃんが景野にさらわれたとき。
彼女が、苦しそうに言った言葉が、いまも忘れられない。
『……いい加減、……離してよ、牙城くん』
あれがトラウマだって言ったら、百々ちゃんはどう思うかな。
やっぱり、愛が重いって言う?
それとも、ごめんねって謝る?
どっちにしろ、嫌だから、秘密にしておくけどね。
その代わり、これからたくさん大好きって伝えてくれたら、もうなんでもいいよ。
それだけで、本当に俺、幸せだから。
俺の言葉に小さくうなずく百々ちゃんは。
そっと俺の手を握り返しながら、ふわっと天使みたいな微笑みを向けてくる。
そのあまりの可愛さに語彙力を失いかけていると、彼女は、いま、俺がいちばん欲しい言葉を発してくれた。