離してよ、牙城くん。
「……なーに、百々ちゃんは言いつけ守れないの?」
なんとも面白くなさそうに言う牙城くん。
……そんな牙城くんの背後から滲む真っ黒なオーラに、目を泳がせて耐えるのみ。
ふだんはぜったい、わたしの前では殺気立たないくせに、いまは別らしい。
……きっと、彼はあのことを言ってるんだ。
半ば強制的に約束させられた、
─── 『朝倉百々の休み時間は牙城くんのもの』
という謎のルールのことを。
「……ご、ごめんね」
謝る必要は、たぶん、どこにもない。
でも、たしかに(無理矢理だけど)約束したのは自分なわけで。
守らないのは、人としていけないこと。
うつむいて呟くと、牙城くんは「いーよ」なんてテキトーな返事で頷いた。