離してよ、牙城くん。
「百々ちゃんって、やっぱいいね、まじで」
「……うん?」
「惚れる、最高」
「んええ……??」
さっきまでのからかいはなくて、ちょっぴり甘い牙城くんだ。
彼の雰囲気の軽さは、春のそよ風みたい。
ふわっとしてて、掴むことのできない、そんな感じ。
惚れる、とかパワーワードが彼の口から飛び出していた気がするけれど、きっとそれはジョークってやつだから、本気にはしなかった。
ドキッとしたのは否めないけどね。
しばらく眠たそうな牙城くんをじーっと見つめていると、またも彼のスマホが震え出す。
プルルルル、と鳴り止まないそれに、堪え切れなくて「がじょーくん、」と声をかけたら彼は仕方のなさそうにそれを手に取った。
そんなに通話、嫌なのかな?
牙城くんは、画面をタップし、顔をしかめて耳に当てた。
「なに?椎名」