離してよ、牙城くん。
「なーに、百々ちゃん。
俺、いま怒ってんだけど」
そんな、気に入らないって目で見てくる牙城くんに「だめだよ」と念を押す。
「牙城くん。あのね、わたしのまわりの人を脅さないで」
佐倉くんは、大事なクラスメイト。
気さくで話しやすくて、けっこう仲がいいぶん、申し訳ない。
……でも牙城くんという人は、話はまともに聞かないし、不良のせいか威圧感がすごいから。
佐倉くんみたいに、怯えてしまうのもわかるもの。
けれど。
みんなが牙城くんを怖がる理由ナンバーワンは、“アレ” だ。
“ 牙城渚は【狼龍】のトップで、
────彼を怒らせたら殺される ”
【狼龍】とはこのへんで最も恐れられる……、暴走族、らしい。
そんなもののトップだと知ったときは驚きすぎて、すぐに牙城くんを問い詰めた。
否定するのかな、とか、否定してほしいかも、とか。
そういう気持ちは、牙城くんの言葉であっさり砕かれた。