離してよ、牙城くん。


でも、みんな気づかない。


噂ばかりの彼を認識していて、ちょっと悲しいの。



毎夜、機嫌のままに人を殴っている、とか。

仲間との喧嘩も絶えない、とか。


いつも、ちがう女を連れている、とか。




きっと、牙城くんは、そんな人じゃないのに。




それをもっとみんなに誤解されるのが、なんだか苦しくてもやもやして。


だから、なるべく危なくて喧嘩腰の牙城くんは控えてほしいって思ったんだけど……。




「……えー、やっぱそーいうとこだよなあ、百々ちゃんって」





急に、声が優しくなった。



雰囲気も柔らかくなって。







「……っつーことでさ、おまえ、どっか行けよ」





佐倉くんに、にこっと軽く笑いを向けた。



…………牙城くんの口調がわるすぎて唖然としていたら、
佐倉くんはもっと青くなってコクコクと頷き、
金縛りからとけたように我に返ってダッシュで去っていった。




< 8 / 381 >

この作品をシェア

pagetop