離してよ、牙城くん。


花葉を見つめ、そう聞く彼に苦笑いでごまかす。



花葉はいまだに状況がわかっていないだろうけど、スイーツの美味しさに好奇心は勝てなかったのか、ずっともぐもぐしている。


ようやく口を開き、「百々モテモテじゃん」とじとっと湿気のある視線で見つめられたから、気まずくて目を逸らしてしまった。


これからどうしようかな……と思っていると、淡路くんは少しわたしから離れて言った。




「俺はそろそろ行くわー」



え、と思わず引き止めそうになる。

さっき話しかけてきてくれたのに、もう行っちゃうんだ……。




それはそれで寂しいけれど、わざわざ引き止める理由もないから小さく頷く。




「それじゃ、楽しんでね〜」




含みのある言い方が、なんだか気になった。


だけど、淡路くんはずっとそんなだから気にするのをやめて、花葉とまたお喋りを再開した。




そっと淡路くんに視線を向けると、彼はおなじくスーツ姿の背の高い男の人とお店を出て行った。












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