離してよ、牙城くん。
そんな呑気な声が聞こえてきた。
驚いて顔を上げようとするけれど、
それを阻止するように牙城くんがわたしにスーツのジャケットを被せたものだから前が見えなくなった。
……牙城くんの匂いだ。
いいにおい。
変態みたいなことを思いながら、視界が真っ暗の中にやけてしまう。
どうやら相手のひとにわたしの顔をなぜか見せたくないらしく、よくわからないけれど黙って従うことにした。
そこで、ようやく牙城くんが口を開く。
「ちげえよ、この子は俺のオンナ」
お、おれのおんな……?!
ええ、あ、……それって……どう言う意味?!
呑気なのは、きっとこの場でわたしだけだ。
「ナギの?
へえ……、オンナ、ねえ」
「おまえはさっさと仕事しろ」
「へえへえ。
総長は仕事中にうかうか女と会ってるくせにね」
「不可抗力だから」