また、世界が輝き出す
中学3年の夏。ちょうど今と同じ位の、少し汗ばむような、快晴だった日。
僕は1人でカメラを手に、家の近くの公園に来ていた。
カシャッ。カシャッ。
僕は上を向きながら、シャッターを勢いよく切る。
『よし、よく撮れてる』
父が誕生日に買ってくれた少し良いカメラを手に、色々な場所に行っては写真を撮っていた。
最初は写真を撮ることに対して何とも思って居なかったが、自分の手で写真を撮っていくうちに、自分が綺麗だと思ったものや、その時その瞬間しか見られない光景を記録に残せる、そんなカメラの事が好きになっていった。

『綺麗な写真ね、よく撮れてる』
背後から女の子の声が聞こえ、僕はビックリして思わずひゃっ、と変な声を上げてしまった。
『あはは、そんな驚かなくても』
僕と同じくらいの歳に見える女の子は、無邪気そうに笑う。風で、彼女の肩甲骨ぐらいまで伸びた、美しい栗毛色の髪が揺れる。僕は思わず見蕩れた。

『君の撮る写真、とっても好きだな。もっと見せてよ』
『べ、別にいいけど…』
『ねえ、私凛花っていうの。君の名前は?』
『…蒼太』
『よろしくね蒼太!』

フレンドリーな彼女に押し負け、その日を境に、僕はその少女と一緒に写真を撮りに色々な所へ行くようになった。
僕たちが特にお気に入りでよく行くのは、海だった。
初めて一緒に海に来た時彼女は、空と海の地平線を見るのが好き。一面すべて青くて、キラキラしてて。心もキラキラしてく。と言った。
僕は、海は別にどうも思ってなかったけど、その言葉を聞き海というものがなんだか愛おしく感じた。そして僕は、愛おしそうに海を眺めてそんなことを言う彼女の横顔が、とても綺麗だと思った。
『ねえ凛花、凛花を撮っていい?凛花が好きな海を背景に』
『え!?恥ずかしいからやだよ』
『どうして?凛花はすごく綺麗なのに』
凛花は目を丸くして、それから頬を赤くした。そしてすぐにそれが、思わず出た自分の言葉のせいだと分かって、僕の顔も熱くなった。
『ごめん、今のは』
『えへへ、でもやっぱり恥ずかしいから、また今度ね。ごめん』
彼女は照れながら言った。それ以上僕は何を言うことも出来なくて、うん、とだけ返した。
それからも、彼女が僕の写真の中に収まることは無かった。
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