また、世界が輝き出す
夏もいよいよ本気を出して来て、セミが元気に鳴いている日。僕達はまた海に来ていた。
夏真っ盛りということもあり、ちらほらと観光客が居て、夏を楽しんでいる姿が伺えた。
いつものように写真を撮ったり、いつものように海を眺めながら駄弁ったりしていた。
彼女と過ごす、そんな変わらない日常が僕は好きだった。
でも今日は、今日だけは日常とは違った。

『やあお嬢ちゃん、ここで何してるの?』
いかにも不良な高校生らしき男子3人組が、凛花に話しかけた。横目で彼女に目をやると、凛花も3人のことを警戒しているようだった。
『…別に、何もしてないですけど』
『暇してるんだ〜、じゃあ俺らと遊ぼうよ〜』
その3人はまるで僕が見えていないように、僕のことをガン無視して凛花に近づき、彼女の腕を強引に掴む。
『やめて、触らないで!』
凛花が抵抗する。
『か、彼女に触らないでください!』
僕はあまり大声を出すのは得意な方じゃなかったが、勇気を振り絞って声を出し、不良の手を強く払った。
不良はやっと僕の存在に気付いたかのようにこちらを向いた。
『いって…何すんだよガキ…』
そして舐め回すように僕のことを見たかと思えば、僕の首にかけているカメラを見て、ニヤリと笑った。
『へぇ…君、カメラ好きなんだ』
そう言ったかと思えば、僕のお腹に鈍い痛みが走った。お返しをくらったのだ。
一瞬息が出来なくなり、僕はお腹を抱えて倒れ込んだ。

『蒼太!!!やめて、何てことするのよ…!!』
『先に仕掛けてきたのはあっちのガキだろ?お嬢ちゃん、人の心配してる暇あるのかなあ〜?』
『ちょ、何するの、やめて!!やめてってば!!』
僕は1人の男に押さえつけられ、もう2人の男は、凛花の服を無理やり脱がそうとし始めた。
『やだ!!!やめてよ!!!』
『凛花!!!やめろ、やめてくれ、凛花に触るな!!』
僕は凛花を助けようと立ち上がろうとするもその努力は虚しく、殴られまた痛みで座り込んでしまう。
『蒼太!!!』
『やめてください…凛花だけには…何もしないで』
僕は何をすることも出来なくて、ただただ男に殴られながら、必死にそう言うだけだった。
何も出来ない無力な自分が情けなくて、
そして無理やり露わになっていく彼女が痛々しくて、僕は彼女の方を見ることが出来なかった。

不良の1人が言う。
『蒼太クン…だっけ、写真撮りなよ、そのカメラで。凛花チャンのヌード』
僕は予想外の言葉に、数秒頭が真っ白になった。
『何言ってるんですか…ふざけないでください…』
『君、好きなんでしょ?凛花チャンのこと。それだったらイイじゃん裸〜。見たいでしょ?俺が手伝ってあげるよ〜』
『…嫌です』
『いいの?凛花ちゃんがどうなっても。撮ったらここで2人とも見逃してあげるよ〜、君も殴られ疲れたでしょ、あはは』

この人たちは、正真正銘の屑だった。
涙と血で、意識が朦朧としていて、周りがよく見えなくなってきていた。
『僕は…撮らない』
『は?カッコつけてんの?ダッセー。助けられないくせに口だけは立派なのね。何、まだ殴られ足りないの?』
髪の毛を強く引っ張られ、痛みで声が出る。
その時、彼女の弱々しい声が、確かに聞こえた。
『蒼太、もういいよ。私を撮って』

僕は、身体が、心が、冷たくなっていく感覚がした。視界から色が消えていく。
『凛花、何言って…』
『撮って』

僕はそれ以上何も言えなかった。そして彼女に言われるがまま、震える手でシャッターを切った。
僕が彼女を撮ったのは、これが最初で最後。泣きながら映る、裸の彼女だった。
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