また、世界が輝き出す
『はあ……』
僕は深く溜息をついた。嫌なことを思い出してしまったな、この道端に落ちているカメラのせいで。僕はこのカメラが少し腹立たしく思い、蹴ろうとする。しかしここである事に気付き、蹴るのを止めた。

『これ…僕のカメラと同じ機種かよ…』
僕が使っていたカメラは古い型で、今ではあまり出回っていないような品物だ。
こんな皮肉めいた奇跡あるかよ…と苛立ちを通り越してむしろ少し可笑しく感じた。

僕は写真を撮ることを辞めた。あのことがあってから。そして彼女とも会っていない。否、合わせる顔が無く、ひたすらに彼女を避けた。避けているうちに、彼女は僕の視界から消えていった。
そして僕には、何も無くなった。

さて、このカメラ、どうしようか。僕は落ちてあるカメラに目をやる。
ここ出会ったのも何かの縁だし、交番にでも届けてやるか。
僕はそのカメラを手に取る。電源が付いたままだった。ついさっき落としたばかりなのだろうか。興味本位で、落とした人が撮っただろう写真を覗いてみた。
『何だこれ…』

それはお世辞にも上手いとも言えないような、ブレブレな写真だった。
色合いで、辛うじて空の写真と分かる。
明らかに中学時代の、カメラを触り始めた僕の方が、上手だろう。
勝手に人のカメラの中身を覗いてしまったのも、心の中で小馬鹿にするのも、だいぶ失礼だよな、すみません、と思いながら静かにカメラの電源を落とした。
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