無口な侯爵はエメラルドの瞳に恋をする
エルはその晩、馬車の音で目を覚ました。
窓の外を覗くと、馬車からネリウスが降りて、屋敷の中へ入っていくのが見えた。
────こんなに遅くまで仕事をしていたんだ。
疲れていないかな、ご飯は食べたのかな。そんなことを考えながら、エルはネリウスがもう見えなくなった外を眺めた。
ネリウスはあのバラに気付いただろうか。自分からの贈り物だと────。
自分はお世話になっている側だ。侯爵であるネリウスに何かしてあげられることはほとんどない。
役に立ちたいが、家事を手伝おうとするとミラルカに怒られるからそれも出来ない。自分にできるのはこれくらいしかない。
忙しいネリウスが少しでも元気になってくれれば。そう思いながら再びベッドに潜った。
それから暫くして、なんの前触れもなくネリウスから手紙が届いた。
手紙の内容はまたしても短いもので、「庭を見に行ってみろ」と、それだけ書かれていた。
エルは直ぐに部屋から出て、庭へと向かった。ネリウスがバラ園にいるのかもしれないと思ったのだ。
息を切らしながらバラ園にたどり着いて、辺りを見回すと、ネリウスはいなかった。だが、すぐに別の存在に気がついた。
美しいグリーンの花弁を持つバラがそこに咲いていた。
そのバラは数ある花の花で異彩を放っていた。見たことがない色だ。
────ネリウス様はこれのことを言っていたの…?
その場にでじっと見つめていると、ファビオが後ろから現れた。
「あ、エル! 見てくれたんだそのバラ」
どうやら、ファビオは知っているらしい。庭を管理しているのはファビオだからファビオが植えたのだろう。
『このバラはファビオが植えたの?』
「うん、少し前に旦那様から頼まれて探しに行ったんだ。緑のバラなんてなかなかなくてちょっと困ったけど、探してみればあるもんだね」
『そうなんだ……』
「それ、旦那様からエルへのプレゼントだと思うよ。旦那様口下手だから言わないだろうけど……きっと、そうだと思う」
エルは目の前のバラをじっと見つめた。言い表せない思いが込み上げて、胸が苦しくなった。
ネリウスは気付いていたのだ。自分が置いたバラに。
手紙はいつも短くて、素っ気ない返事。顔を合わせても何も言ってくれない。
それでも、ネリウスはいつも素敵な贈り物をくれる。
珍しいバラを貰えたことが嬉しいのではない。もちろん、それも嬉しいことだが────。
ネリウスがこのバラを選んだのは自分のことを考えてくれたからだ。
何も言われていないけれど、伝わった。
自分がネリウスに赤いバラを選んだように、ネリウスも自分にこのバラを選んだのだ。
エルは嬉しくて、毎日その緑のバラを眺めにバラ園に行った。何時間でも見ていたい。そう思えるほど気に入った。
あまりにエルがバラ園に留まるので、ファビオはエルのために園内にベンチを用意した。
季節が過ぎ、花が枯れてなくなった後も、エルはずっとそのバラを眺めて過ごした。
ネリウスがくれたら特別なバラだから。
窓の外を覗くと、馬車からネリウスが降りて、屋敷の中へ入っていくのが見えた。
────こんなに遅くまで仕事をしていたんだ。
疲れていないかな、ご飯は食べたのかな。そんなことを考えながら、エルはネリウスがもう見えなくなった外を眺めた。
ネリウスはあのバラに気付いただろうか。自分からの贈り物だと────。
自分はお世話になっている側だ。侯爵であるネリウスに何かしてあげられることはほとんどない。
役に立ちたいが、家事を手伝おうとするとミラルカに怒られるからそれも出来ない。自分にできるのはこれくらいしかない。
忙しいネリウスが少しでも元気になってくれれば。そう思いながら再びベッドに潜った。
それから暫くして、なんの前触れもなくネリウスから手紙が届いた。
手紙の内容はまたしても短いもので、「庭を見に行ってみろ」と、それだけ書かれていた。
エルは直ぐに部屋から出て、庭へと向かった。ネリウスがバラ園にいるのかもしれないと思ったのだ。
息を切らしながらバラ園にたどり着いて、辺りを見回すと、ネリウスはいなかった。だが、すぐに別の存在に気がついた。
美しいグリーンの花弁を持つバラがそこに咲いていた。
そのバラは数ある花の花で異彩を放っていた。見たことがない色だ。
────ネリウス様はこれのことを言っていたの…?
その場にでじっと見つめていると、ファビオが後ろから現れた。
「あ、エル! 見てくれたんだそのバラ」
どうやら、ファビオは知っているらしい。庭を管理しているのはファビオだからファビオが植えたのだろう。
『このバラはファビオが植えたの?』
「うん、少し前に旦那様から頼まれて探しに行ったんだ。緑のバラなんてなかなかなくてちょっと困ったけど、探してみればあるもんだね」
『そうなんだ……』
「それ、旦那様からエルへのプレゼントだと思うよ。旦那様口下手だから言わないだろうけど……きっと、そうだと思う」
エルは目の前のバラをじっと見つめた。言い表せない思いが込み上げて、胸が苦しくなった。
ネリウスは気付いていたのだ。自分が置いたバラに。
手紙はいつも短くて、素っ気ない返事。顔を合わせても何も言ってくれない。
それでも、ネリウスはいつも素敵な贈り物をくれる。
珍しいバラを貰えたことが嬉しいのではない。もちろん、それも嬉しいことだが────。
ネリウスがこのバラを選んだのは自分のことを考えてくれたからだ。
何も言われていないけれど、伝わった。
自分がネリウスに赤いバラを選んだように、ネリウスも自分にこのバラを選んだのだ。
エルは嬉しくて、毎日その緑のバラを眺めにバラ園に行った。何時間でも見ていたい。そう思えるほど気に入った。
あまりにエルがバラ園に留まるので、ファビオはエルのために園内にベンチを用意した。
季節が過ぎ、花が枯れてなくなった後も、エルはずっとそのバラを眺めて過ごした。
ネリウスがくれたら特別なバラだから。