無口な侯爵はエメラルドの瞳に恋をする
庭でバラを眺めていたエルの元に、ミラルカがものすごい勢いで走って来た。
「エル様! ちょっとお願いがあるんです!」
ミラルカは立ち止まるとゼエゼエと息を切らしながらエルを見つめた。その目はなにやら真剣に見える。
「今度、旦那様と一緒に社交界に行きませんか?」
ようやく息を落ち着けたミラルカの言葉に、エルは固まった。
────社交界? って、あの……?
その存在はエルにとって今まで縁のないもので、本の中だけでしか知らない。
貴族達が集まって、華やかなダンスやお喋り────三年前まで小汚い格好をしていた小娘にはまるで縁のないものだ。
『でも、私は喋れませんし、ダンスも踊れません』
「喋らなくても大丈夫です! だから、今度ダンスの練習をしましょう」
ミラルカはそう言うが、できる気がしなかった。勉強とは違う。しかもそんな華やかな場所に行ったら自分が浮いてしまうような気がした。
「大丈夫、誰でも最初は下手ですから。エル様さえよければ、旦那様が《《直々に教えて下さる》》そうですよ」
────ネリウス様が?
一瞬戸惑ったが、エルはすぐに決めた。
『分かりました。頑張って覚えます』
「よかった! じゃあルーシーに新しいドレスを頼まなきゃ!」
ミラルカは嬉々としてバラ園から走り去った。
再び静かになったバラ園のベンチに、エルはまた腰を降ろす。
オーケーの返事を出したのは、ネリウスに会えると思ったからだ。会って話したい。バラのお礼も言いたい。また彼の声を聞きたい────。
まともに会っていない期間が長いのに、こんなにネリウスのことばかり考えていた。
ダンスは正直抵抗がある。社交界なんて場違いもいいところだ。
自分はどこで生まれたからも分からない、卑しい身分だ。お偉い身分の人たちに混じって踊るなんて、ネリウスの迷惑にならないだろうか。
けれど、今はただネリウスに会いたかった。
ミラルカは早速連絡したのか、その週のうちにルーシーが来て、エルの新しいドレスの採寸をしていった。
エルが社交界に行くと聞いて、ルーシーは大張り切りしている。
エルは少し不安になりながらも、ネリウスとの練習の日を待った。
「エル様! ちょっとお願いがあるんです!」
ミラルカは立ち止まるとゼエゼエと息を切らしながらエルを見つめた。その目はなにやら真剣に見える。
「今度、旦那様と一緒に社交界に行きませんか?」
ようやく息を落ち着けたミラルカの言葉に、エルは固まった。
────社交界? って、あの……?
その存在はエルにとって今まで縁のないもので、本の中だけでしか知らない。
貴族達が集まって、華やかなダンスやお喋り────三年前まで小汚い格好をしていた小娘にはまるで縁のないものだ。
『でも、私は喋れませんし、ダンスも踊れません』
「喋らなくても大丈夫です! だから、今度ダンスの練習をしましょう」
ミラルカはそう言うが、できる気がしなかった。勉強とは違う。しかもそんな華やかな場所に行ったら自分が浮いてしまうような気がした。
「大丈夫、誰でも最初は下手ですから。エル様さえよければ、旦那様が《《直々に教えて下さる》》そうですよ」
────ネリウス様が?
一瞬戸惑ったが、エルはすぐに決めた。
『分かりました。頑張って覚えます』
「よかった! じゃあルーシーに新しいドレスを頼まなきゃ!」
ミラルカは嬉々としてバラ園から走り去った。
再び静かになったバラ園のベンチに、エルはまた腰を降ろす。
オーケーの返事を出したのは、ネリウスに会えると思ったからだ。会って話したい。バラのお礼も言いたい。また彼の声を聞きたい────。
まともに会っていない期間が長いのに、こんなにネリウスのことばかり考えていた。
ダンスは正直抵抗がある。社交界なんて場違いもいいところだ。
自分はどこで生まれたからも分からない、卑しい身分だ。お偉い身分の人たちに混じって踊るなんて、ネリウスの迷惑にならないだろうか。
けれど、今はただネリウスに会いたかった。
ミラルカは早速連絡したのか、その週のうちにルーシーが来て、エルの新しいドレスの採寸をしていった。
エルが社交界に行くと聞いて、ルーシーは大張り切りしている。
エルは少し不安になりながらも、ネリウスとの練習の日を待った。