わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

 翌朝、ここから本社に出勤するから、早めに朝食をすませた。食堂から宿泊棟へ戻るときに、宿泊棟の玄関へと歩いていく橘部長と清川さんを見つけた。
 橘部長と清川さんは会話しながら歩いている。
 違和感がないことに違和感を覚えた。
 玄関ホールには秘書部の杉岡さんがいて、三人で何か会話をして、清川さんが車を見送って振り返る。

 清川さんはとても可愛い顔で笑っていた。

 最終面接の前に、清川さんに向かって無表情で「可愛い」と言った橘部長。

 京都に住むという噂の彼女。

 同じ歩調で歩いている男女。

 
 マジか……。

 僕がぼうっと立っていると、僕を見つけた清川さんが「おはようございます!」と笑っていた。彼女から、今後の研修の内容や、出された課題のこと等を聞かれたので、話しながら一緒に宿泊棟へ戻った。動揺していたから、僕はちゃんと答えられたか定かではない。


「ああ、そういえば、昨日の事、僕も聞いたよ」

 一般職の吉岡さんと揉めたという事件について触れると、清川さんが眉を下げた。「実は、こういう会話で……」と話してくれた内容は、僕が聞いたものとは少しズレていた。橘部長と吉岡さんが一緒にいた状況だったことも知らなかった。
 僕がそう言うと、「ああ! 内緒にしてくださいねえと言われていたのに!」と清川さんが叫んでいた。

「どういう意図かわかんないけど、別に黙ってなくてもいいんじゃないかな。でも清川さんは結構うっかりやだから、これからは言動に気を付けてね」
「すみません、本当に気を付けます」

 心の底から反省してる様子で、清川さんがしょんぼりしている。

「しかし、橘部長は本当にモテるなあ。僕もあんな顔に生まれたかったよ」
「そうですか? 林さんも格好いいですよ。頼れるお兄さんって感じで素敵です」

 笑顔で見上げながらそう言うから、僕はびっくりした。多分、顔が赤くなってるだろう。

「清川さんは本当に言動に気を付けて!」

 僕がそう言うと、彼女は「すみません。気を付けます」と笑っていた。
 ああ、多分、きっと僕の予想は当たっている。だって、彼女、可愛いもん。



【秋】終
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