わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
「確か、めっちゃ年上でしたよねえ?」
「あーうん。三十七歳……」
「そないに離れてるんですか! びっくりした! もしかして、SNSやらちょいめんどいんかなぁ」
「うん、もともと既読スルーも多い人だし」
「付き合いはじめは頑張って合わせとったんですかねえ?」
じゃあ、今は頑張ってないってこと? 釣った魚にエサはやらないってやつ?
私がちょっと落ち込んだのに気づいたのか、なっちゃんが慌てていた。
「気にしすぎたらあかんよ。年の瀬は仕事もせわしないんやろうし」
「そうだねえ……。なっちゃん、いつもありがとう。久しぶりに話せて楽しかったよ」
「うちもですよ! また遊びに来てください! 今度は是非、その彼氏さんも一緒に!」
休憩室を使わせてもらったから店長や塩見さんにも挨拶をして店を出た。まだ開いているケーキ屋さんに寄って、ブッシュドノエルを買って地下鉄に乗る。ケーキが潰れないように気をつけて、酔いもすっかり醒めてしまった。
今出川駅から歩いて、アパートが見えてきた時、心臓がとまりそうになった。
路地に立っている細い長身の人影。見慣れた黒いコート。
暗くても、遠くからでも、すぐにわかるその人。
私の好きな人。