わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
宮燈さんの胸に手を当てて、懸命に体を上下させたけど、やっぱり足に力が入らない。
「あっ、あ……むり……ごめんなさ……」
猫のように背を丸めて息を吐いて、そのまま動かずにいたら宮燈さんが言う。
「私が君を忘れるはずがないだろう?」
「だって、返事」
「すまなかった。詳しくは言えないが私用の携帯を持ち込めない場所にいることも多い」
土日もお仕事なのかな……。他社に訪問するときとか、入口に鍵付きロッカーがあって、そこに電子機器は全部預けないと入れてもらえない企業もあると聞いたことがある。そういう所に行ってるのかもしれない。仕方ない。
仕方ないけど、やっぱり寂しい。
「わかった。でも、寂しい……宮燈さん、好き」
見下ろしてると宮燈さんの表情が少しだけ変わった。
あれ? 何か複雑そう。
お仕事だから仕方ないのに私がわがまま言うから迷惑に思ってる?
自分で言ったことを後悔していたら、宮燈さんが質問してきた。
「近くにいたら不安にならなくてすむか?」
「……うん。多分。わからないけど……遠いのは時々辛い」
私が正直にそう言うと、宮燈さんが笑った。久しぶりに笑った顔を見たから、その威力にびっくりした。なんて綺麗なんだろう。その綺麗な顔で宮燈さんが囁いた。
「早く、一緒に、暮らしたい」
そんなこと言われるなんて、思ってもみなかった。もう、あと三ヶ月もすれば私も東京に引越して一緒に暮らすことになる。新居はどうするのかという相談をしたときに、引越代がかからないように私が中目黒のマンションへ転がり込むことになった。通勤にも便利だし。駅まで三分とか神かよと思った。
甘々新婚生活なんて、全然想像がつかない。宮燈さんは、家でもあまり喋らずに静かにしてそう。
「私も、早くずっと一緒にいたいです」
私が笑ってそう言うと、安心したような顔をする。早く東京で一緒に暮らしたい。初めて行った時は、あんなに「東京」が嫌だったのに。宮燈さんがいてくれたら大丈夫だと思える。
宮燈さんがいなくなったら、私は生きていけるのかな。失うのが怖い。そう思うと、何だか自分が弱くなったような気がした。