わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

 私は今、宮燈さんのお陰で人並み以上の生活をしている。少し高価なお化粧品も下着も買えるくらい。ご飯だって、遠慮無く好きな物を食べている。小麦粉に水まぜてレンチンして食べたり、もやしを主食にしなくてもいい。
 私はこれまでの人生で我慢することの方が多かった。欲しいおもちゃも食べたいお菓子も、可愛いお洋服も。我慢して当たり前だと思っていた。でも、どれだけ頑張ってもこれだけは我慢できない。

 宮燈さんと別れるなんて嫌。
 何もかも捨てていいから、宮燈さんだけは失いたくない。


 どうしよう、どうしようと思考していたら、テーブルの上に置きっぱなしだった私の携帯端末が振動した。見れば宮燈さんからだった。
 出たくない。でも、出なくては。

「おはようございます」
『おはよう、桜。……すまないが、週末の約束が守れない』

 今週末は京都で結婚式の打合せがあるはずだった。もう来月に迫った私たちの結婚式。

「わかりました。じゃあ、いつものように私とお母様で参りますね」
『そのことなんだが、結婚式を延期したい』
「なんで?」
『言えない』
「なんで?」

 もう一度繰り返したが、返事は無かった。言うつもりはないらしい。ぶん殴ってやりたい。

『父から呼ばれているので切る』
「待って」
『すまないが、時間がない。また連絡する』

 そう言って一方的に電話を切られてしまった。

「私が……」

 握りしめたスマホから、バキッと音がしたけど気にしない。割れたのはケースだ。本体じゃない。

「私が黙ってると思ってるの?! ふざけんな!!」

 以前使っていたチープなファンデーションを出してお化粧をしなおした。内定式にあわせて買った、一番いいスーツを着て、最小限の荷物を持って私は家を出た。

 東京へ行く。
 行って確かめてやるんだから!
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