わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
「言えない、なんてことあるかよ。君は配偶者だろう? こっちは散々苦労して君達のことを隠してきたのに」
「そのことなんですけど、私達って本当に結婚してるんですか?」
私がそう質問すると、呆れたような顔で杉岡さんが答えてくれた。
「疑うなら、住民票をもらってくればいいだろう」
「あっ! そっか!」
「君は頭がいいのか馬鹿なのかわからないな……。手っ取り早く健康保険証でも見てみろよ」
そう言われて、私はお財布から保険証を出した。『氏名 橘桜』と書かれた私の健康保険証。結婚することで私は宮燈さんの扶養家族になったから、健康保険は国民健康保険から双葉の社会保険に切り替わった。『家族(被扶養者)』『被保険者氏名 橘宮燈』と記された小さなカード。私が宮燈さんと結婚してるって事の客観的な証拠。
確かめたら安心して涙がぽろぽろ零れてきた。杉岡さんは戸惑ったような声で「おい、泣くなよ。俺が泣かせたみたいで居心地が悪い」と言っていたが、涙がとまらなかった。
この保険証を発行する手続きをしてくれたのは、総務課福利係の二人の社員さん。宮燈さんが結婚したことは総務部長とその二人の社員さんしか知らないらしい。杉岡さんからこれを手渡されるときにそう聞いた。
「離婚したら、また面倒な手続きをお願いしなくてはならないですね。ごめんなさい」
私がそう言うと、「本気なのか?」と杉岡さんが問う。だから、私は顔をあげて答えた。
「もし、橘部長が浮気してたら、私は絶対許せません。離婚します」
「もしそれが、一回の過ちでも?」
「過ち……? 一回だろうが何だろうが、私は許せないです」
それに、それこそ私と宮燈さんが結婚したきっかけだけ見れば、私の方が「過ち」で、浮気相手の方が本気なんじゃないかと思ってしまった。