わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

 杉岡さんによると、今日の宮燈さんのスケジュールは午後七時までは予定がいっぱいらしいけど、いまの会議終了後に少し時間がとれるよう調整してくれるそう。

「俺は君が嫌いだが、人を裏切る奴はもっと嫌いでね。自分の仕える上司がそんな人じゃないと信じたいから、ちゃんと君から確かめて欲しい」

 杉岡さんはとても真剣な顔をしていたから、本当にこのおっさんは真面目な良い人だなと思った。


 スケジュール調整するから、と杉岡さんは私を残して秘書室に帰ってしまった。ぽつんと残されて何だか寒い。暖房はついているけれど足元が寒い気がする。お手洗いに行きたいなと思って、そーっと廊下に出てみた。誰もいないからほっとしていたけど、女子トイレはいつの世も、どこにおいても、噂話をするにはうってつけの場所らしい。中から数名の女性の声が聞こえる。

「信じられない! あの橘の宮が!!」
「分析班が確実に本人だと言ってたからね」
「あのネクタイピンでしょ?」
「年末からほとんど毎日あれ着けてたから、すぐわかっちゃったらしいね」

 一瞬、「宮燈さん、毎日使ってくれてたんだあ、わあい」と浮かれたがそれどころではない。
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