わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)

「否定しないんですか……。本当に……実家にまで行ったんですね。そうですか。綺麗な人ですね。才能もあって自立して、素敵だと思います。借金抱えた私よりよっぽどお似合いです」

 生まれて初めて、私は心にもない事を言ってしまった。お似合いなんて思ってない。嫉妬しかしてない。こんな女、消えてしまえと思ってる。

「君がそう言うなら、そうなんだろう」

 あまりにも無責任な事を言うから、私は「歯ぁ食いしばれ」と叫んで、手首にスナップを利かせて、夫の綺麗な顔を思い切り平手打ちした。宮燈さんは表情を変えない。悔しい。肩も手も痛い。グーで腹パンの方が良かったかな。

 力任せにドアを開けると、杉岡さんが「うわっ」と言いながらよろけていた。誰も近づかないように、そして話を聞くためにドアにもたれていたんだろうなと思ったから、私は言った。

「聞こえました?」

 杉岡さんが目を反らす。聞こえたんだね。

 私は逃げた。もう何も考えたくない。
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