わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
「浮気するやつは、平然とするからね」と修士課程の須田先輩に言われたのは、去年のクリスマスイブの日だった。
デートだデートだと散々浮かれていたのに、当日研究室にいたせいで、同級生から「清川はセカンド」等と言われていたあの日、私を昼食に誘ってきた須田先輩は、「ドン引きされるの覚悟で、私の黒歴史を教える」と言って話してくれた。
須田先輩は彼女がいる人を好きになってしまって「一度でいいからお願い」と誘ったそう。すると相手の男は、あっさり先輩を自宅に連れ込んだ、と。
浮気するやつは、そんなそぶり微塵も出さずに平然とする。
ヤバイ、なんでこんな話を今思い出しちゃったんだ。
疲れてるのに、全然眠れないじゃん……。
……
…
でも、眠れないと思ったのは一瞬だったようでぐっすり眠った私は、翌朝ぱっちり目が覚めた。
「せっかく来たんだから、気晴らしに観光しよー!」
私はゆっくりとホテルの朝食を楽しんだあと、近くの商業施設で買い物をして着替えた。
路面電車に乗ってグラバー園を目指す。修学旅行で行った時、私は興味があったから色々見て回りたかったけど、同じ班の子が「つまんない」と言って駆け足で見たから、ずっと、もう一度訪れたいと思っていた。
世界遺産にもなった国宝・大浦天主堂の下で「写真撮ろっかなー!」とスマホに電源を入れてカメラに切り替えて手に持ったとたん、着信して思わず画面を触ってしまった。
「すっ、杉岡さん?! おはようございます!」
『小娘……生きてたのか……』
電話から聞こえてくる声には、凄まじく怒りがこもっていたので、思わずひええと耳から離してしまった。