わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
「早かったですね。タクシーを使ったんですか? 路面電車だと長崎駅から三十分くらいかかりますよね。でも私、あの路面電車が好きです。ガタンゴトンって音が……」
「……桜」
そう呟いて、私のいるテーブルまで歩いてきた宮燈さんは、相変わらずの無表情で私を見下ろしている。悪い事して立たされている生徒みたいだなと思った。
店員さんが、近づいていいのかどうしようかと躊躇っているのが視界の端に見えたので、宮燈さんに「座ってください」とお願いした。
コートを脱いで席についても、やっぱり宮燈さんは黙っていたので、私が代わりにコーヒーを注文した。いつものように、お砂糖無しでミルクをつけてもらう。私はブラックなのに、宮燈さんは必ずミルクを入れる。
それが私はとても好き。
私は宮燈さんがとても好き。
だから、これから、何を言われるのか、とても怖い。
知らないままでいた方がいいのか、聞いてしまったら取り返せないことなのかと、想像すると怖い。