わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
怖くて宮燈さんを直視できないから、手を握り締めて外を見ていた。窓からは、小さな漁船や観光クルーズ船、大きなフェリーも行き交う長崎港が見える。日本が鎖国していた時代も、唯一開かれ、異国の船も来航していた鶴の港。
グラバー園の中を独りで散策しながら私はずっと考えていた。私は心が狭いから、もし浮気が本当だったら絶対に許さない。仮に許しても根に持ってしまって、うまくいかなくなると思う。だからもし、杉岡さんの言う「過ち」があったとしたら、私は別れようと思う。それだけは心に決めていた。
「話せる範囲で君に伝えたいことがある」
コーヒーが運ばれて、しばらくしてから宮燈さんが言った。もう目を反らせないから、真正面から夫の顔を見据えた。
ヤバい、顔がいい。
宮燈さんがあまりにも美しくて、何でも許してしまいそうになった。危なーい。私は冷静になるよう努めて、小さな声で言った。
「何でしょう?」
「私が好きなのは君だけだ」
宮燈さんが、今まで見たことないくらい真剣な表情をしていた。
「なぜ、あの人とお食事に? どこで知り合ったんですか?」
「話があると言われたからだ。何度も断ったが執拗で。新聞報道では何回も食事に行ったように書かれていたが、あれは記者が適当に書いたのだろう。行ったのは二回だけ」
「二回……だけ、だと? 二回も、だろうが」
おっと心の声が駄々漏れしてしまった。宮燈さんが黙ってしまったので「続けてください」と促した。