わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
「どこで知り合ったかは言えない」
「秘密保持契約は誰と結んだのですか?」
「それも、言えない」
私に堪忍袋があるとしたら、もう緖はぶっちぶちに千切れてると思う。それでも場所を考えて声を荒げなかった私は、自分で自分を褒めてやりたい。
「隠し事ばっかりで、それで信用しろと?」
「……君の、言う通りだ。杉岡さんにも言われた『言葉で行動は覆せない』と。その通りだと思う。言葉を連ねても、行動が伴わなければ信頼関係は崩れる」
「だから、こうして来てくれたんですか?」
「君が私から離れていくのが耐えられなかった」
昨日、エントランスで私を呼んだ宮燈さんの声が甦る。いま、目の前の宮燈さんも、無表情だけど必死で叫んでるみたいだった。
「他の全てを捨てていいから、君に側にいて欲しい」
「私もですよ。私は元々持ってませんけどね。他に何にもいらないけど、宮燈さんを失うのだけはいやです」
私がそう言うと、宮燈さんが一瞬笑った気がした。
おかしい。夫婦喧嘩をしてたはずなのに、告白しあってる。
宮燈さんが無表情のまま手を伸ばしてきて、私の頬に触れる。冷たかった。クリスマスイブに寒い中、私に会うために待っていてくれたのを思い出した。
もしかして、私はとても愛されているのでは?
こんなに私を愛してくれるのは、両親以外では宮燈さんだけなのでは?
宮燈さんの手に自分の手を重ねて、私は最後の質問をした。
「結婚式を延期したいのは何故ですか?」
私の質問に、宮燈さんが表情を変えた。
消したのではなく変えた。答えるのを躊躇っている。まるで怯えた小さな子供みたいだと思った。