わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
旧自由亭を出て、出口に向かって坂道を下る。私は、二個目のハートストーンを探して下を向いたまま歩いていた。さっき見つけたのより、ちょっと大きい可愛いハート型の石を見つけた。
「やったー! 二個とも見つけました! ラッキー! これで私は幸せになれます!」
ちょうど人通りが途絶えたので、私が写真を撮ってはしゃいでいると、少し離れた場所に立っている宮燈さんが言った。
「桜はいま幸せか?」
「うーん、そうですね。好きな人とデートしてるから、いま幸せです。でも、その私の好きな人って、私にいっぱい隠し事してるみたいなので、これからどうなるかわかりません。……ただ……私は、ありのままを受け入れたいなあとは思っています。それくらいの覚悟はしました。妻なので!」
私が笑って見上げたら、宮燈さんは相変わらずの無表情だった。
「だって、病める時も健やかなる時も、ともに助け合うのが夫婦でしょ? 私は宮燈さんが苦労してるなら、それを分かち合いたいです。だって、もう私は宮燈さんにたくさん助けてもらってますから! 見て見て、このワンピース、今朝買ったんですよ」
私はコートのボタンを開いて、深いボルドーの冬らしいワンピースを見せびらかした。スーツで観光するのもやだなあと思って、ショッピングモールで買った服。ウエストに花モチーフがついていて、フレアな裾がとっても可愛い。
「可愛いでしょ? こんな風にお買い物が出来るなんて、宮燈さんのお陰です! ありがとうございます!」
裾を持ってひらひらさせていると、宮燈さんが「とても、可愛い」と呟いた。
そうでしょ、そうでしょ!
私が「バーゲンで安かったんですよ、これ!」と力説していると、家族連れが通りかかって、ハートの石を見つけて皆で写真を撮っていた。その人たちが出口の方へ行き、また坂道に二人きりになる。
宮燈さんが目を伏せた。ああ、睫毛長い。そう思って顔を眺めていたら、形の良い綺麗な唇を開いて宮燈さんが告白した。
「私は父親が死ぬのを待っている」
あまりにも静かに言うから、私はしばらく言葉が出なかった。