わかりました、結婚しましょう!(原題:橘部長を観察したい!)
「…………どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。これを言って君に嫌われてしまうのではと怖かった。人の死を待つ自分は、君に軽蔑されるのではないかと怖かった」
社長の優しい顔とお母様の笑顔が脳裏に浮かんだ。義理の両親は私達を祝福してくれている。構いすぎなくらいに構ってくれて、申し訳ないくらい。だから、私は恐る恐る質問した。
「もしかして、宮燈さんの……実のお父様?」
宮燈さんが一瞬、私に視線を投げて、すぐに反らした。怖いんだろうなと思った。
「有り体に言えば、私は実の父親を憎んでいる。余命がないと連絡してきた身勝手さも苛立たしい。去年死んでいてくれたらよかった。早く死んで欲しい。結婚式など見せたくない」
出口に近いから、また家族連れやカップルが坂道を下りてきて、写真を撮ったり石に触れたりしている。私は邪魔にならないように宮燈さんの隣へ行った。
余命がない人間が、結婚式を見たがっている。もしそれが愛する家族なら、私だったらむしろ早く結婚式をしたいと思うだろうな。でも、宮燈さんは「憎んでいる」から「見せたくない」んだろう。
だから、結婚式を延期して、実の父親が死ぬのを待っている。
「……クリスマスイブに危篤になった親族って、実の……お父様だったんですね……?」
私がそう聞いても、宮燈さんは黙ったままだった。でも多分、その沈黙は肯定なんだと思う。